Interview

日常を非日常的に描く|光と色彩が魅せる世界

油絵の具で、現実世界の風景を非日常的に描くムサシさん。鮮やかな色彩と光を用いて、異世界感のある空間を表現しています。
どのような想いやこだわりから描かれているのか。ムサシさんにお話を伺いました。

元々絵を描くことが好きというわけではなかった

ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。
10年ぐらい前にホームセンターで油絵の画材を見つけて、やってみようかなと思って始めたのがきっかけです。

20代の頃に友人たちと活動していたバンドがすごく楽しかったんですが、解散した後の生活がなんだか物足りなく感じていて。何か自分1人でもできることがないか考えていた時に、油絵の画材と絵の販売サイトに出会ったので、そこから絵を描くようになりました。

ー昔から絵を描くことは好きだったのですか?
幼少期は、絵を描くことが好きというより割と得意だったのかな、という感覚ですね。学校とかそういう狭い世界では、「絵が上手い人」みたいな感じではあったんですが、特別絵を描くことがとても好きだというわけではなかったです。

「子供の頃は絵を描くことが好きだったけど、大人になるにつれて絵を描かなくなった」というのはよくある流れかなと思うんですが、多分自分の場合は、絵を辞める機会がなかったという感じだと思うんですよ。周りからも「得意だよね」と言われてたのも相まって。

とはいえ、絵をコンスタントに描き続けていたというわけでもなかったんですけどね。バンド活動中に趣味の範疇で、依頼されたCDジャケットを描くぐらいの付き合い方でした。

今は、本当に閉じた自分だけの世界で、自分の好きなように描いて自由に遊んでいるからこそ楽しんでいられるというか。絵を描くタイミングも、心に余裕がある時だけ描いています。仕事が忙しかったり疲れていたりする時は描けないですし、自分のタイミングで集中して描くようにしているので、続けていられるんだろうなと思います。

ー絵を描き始めた時から油絵の具を使っていらっしゃったんですね。
美術館とかで絵を観ることも好きだったんですが、そういうところにある作品って大体油絵じゃないですか。それで、油絵だと色んなことを表現できるんだなというのは元々頭の中にあったので、絵を描くんだったら油絵をやりたいないうのが意識の中にあったんだろうなと思います。

教本を参考にしながら独学で描いているので、ちゃんと学ばれている方からしたら、道具の使い方とか全然わかってないって思われるかもしれないですが(笑)。

今は油絵を描くのがすごく楽しいので、特に他の画材を使う予定はないですね。描く前からパレットの上で絵の具が混ざり合っているのを見ているだけで本当に楽しいですし、描いている段階でも色が綺麗なので、描く時の準備や下描きから見てもらいたいなと思っているぐらいです。

音楽のように感じてもらいたい

ーモチーフは以前から風景を選んでいたのでしょうか?
最初は、人の顔を描くのが楽しかったので、古本屋さんで買った美容師雑誌に載っているモデルさんの顔を描いて練習していました。落書きをするときも人の顔を描くことが多かったので、人の顔を描くのも好きなんだと思います。

油絵を書き始めた頃、美容師用の専門雑誌のモデルを見ながら描いた習作

販売サイトに出品するぞ、となったタイミングで、人の肖像画は違うなと思い、そこから今のようなモチーフに切り替えました。

今でも直接肖像画みたいなのを描いてほしいと頼まれることもあるんですが、それはそれで風景を描くのとは違った楽しさがありますね。

ー夜の街を描かれている作品が印象的ですよね。
光を描くのが楽しいので、そういうシチュエーションを選んでいる部分はありますね。

油絵を描き始めた頃によく思ったのが、絵と音楽は共通点が多いな、ということでした。レンガや建物の窓などの規則的な部分を描いていると、「これは音楽でいうところのリズムだな」「色の組み合わせはハーモニーだな」みたいに感じて。夜の街は、そういった絵のリズムやハーモニーを表現しやすいです。人工的な光がレンガに当たると、そのリズムがよりハッキリしてくるし、ハーモニーを整えたいときは、明かりの数を増やしたり減らしたりすることも出来るので、夜の方がアレンジしやすいというのもあります。

アートは難しいものだと思われることもありますが、僕の場合はもっと音楽みたいに、直感的に受け止めてもらいたいと考えながら描いています。たまたま聴こえてきた知らない歌手の知らない曲に感動することがあるように、絵を感じてもらいたいです。

あとは、自分が異世界感が好きなので、そういうのを表現することを意識しています。今住んでいる土地とは違う文化が発展している場所や、異なった世界みたいなのが好きなんですよね。

今描いている風景画も、場所自体は実在する景色を描いてはいるんですが、表現としてはファンタジーのつもりでいて。例えば、パリっておしゃれなイメージですけど、実際にパリに行くと、想像以上に賑やかだったり汚かったりするじゃないですか。現地を直接この目で見ると、イメージと違ってがっかりすることって結構あると思うので、あくまで「こうであってほしい」という「パリに憧れている気持ち」で描きたいと思っています。

以前『不思議の国のアリス』をモチーフにした作品を描いていたんですが、あの作品ってまさに異世界の象徴だと思うんですよね。なので、ファンタジーと風景画ってちょっと違って見えると思うんですけど、根本的に表現したいものは同じなので、繋がっているのかなと思います。

 

作品名:鏡の世界

「自分は自分」という意識を大切に

ー絵を描く時のこだわりを教えてください。
気持ち的な部分でいうと、遊びの延長だと思って描くことですね。とにかく描いている時間を楽しむ気持ちで、「これはアート作品なんだ」という気持ちは持たず、凡人がただ筆を持って楽しんでいるだけという感覚で。変に構えず、自分は自分でやっているんだという意識を大事にしています。

技術的な部分でいうと色々あるんですが、色は大事にしていますね。色を合わせるのはすごく好きなんですが、色に集中しちゃうと奥行きがなくなってしまうこともあるので、そこは注意しながら描いています。

 

作品名:NYC005

最初からこういう色で塗ろうと決めてから塗り始めるときと、塗っていく中でバランスを見ながら決めるときがあるんですが、前者の方が良い作品になることが多いです。最初にこれだ、と決まったことが完成まで続いたときの方がいい感じにできますし、最初に決まらなくて迷いながら描いたものは、その迷いが絵に出ちゃっていると思いますね。

ー影響を受けているアーティストはいらっしゃいますか?
画風とかは全然違うので、作品そのものではなく、もっと根本にある気持ちの部分で一番影響を受けているかなと思うのは、岡本太郎さんですね。何で絵を描きたいと思ったのかを突き詰めていくと、若い頃にたくさん読んでいた岡本太郎さんの本が原点だったのかなと。

この資本主義の中で、みんな忙しく働いているのにわざわざ絵を描くことは「絶対に必要なこと」ではないと思うんですが、それを正当化してくれるような感じで。そういう無駄なことをするべきだと、強く言ってくれるのが岡本太郎さんの存在だったなと思います。

ー今後やってみたいことはありますか?
さっき異世界って言ったんですけど、もっと身近な場所も面白く描けたら良いなと考えていて。海外は元々馴染みがないので、感覚的に異世界感があるんですけど、例えば新宿みたいな馴染みのある場所や日常的な風景を、異世界のような非日常として描けたら面白いなと思っています。ちなみに「We Love Kyoto」という作品は、逆に外国人目線で京都を描いた作品ですが、この逆バージョンというアイデアはとても気に入っているのでまたチャレンジしてみたいです。

 

作品名:We Love Kyoto

海外に限らず、憧れを抱いている都会でも、見慣れちゃうと異世界でもなんでもないことに気づいてしまうので、幻を描いている感覚ですね。

あまりにもありえない話だと、多分見てる方もしらけてしまうと思うので、現実の延長線上にありそうな世界を描けたら良いなと思います。

あとは、アリスシリーズもまた描いていけたらと思っているので、その2つを今後描いていきたいです。

ムサシ

ムサシ

友人と活動していたバンドの解散をきっかけに、油絵を始める。現実世界の風景を、非日常的な異世界感のある情景に変えて表現。自分らしい絵描き生活を大切に、感動できる作品を描き続けている。

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