Interview

行動力の先に手に入れたもの|日常の宝箱のように生み出されていくアート

絵本の世界から飛び出したような、遊び心ある作品を手がけるNoenoeさん。水彩絵の具で描かれた優しく柔らかい雰囲気の作品を多く描かれています。
どのような経験や想いから今に至るのか、お話を伺いました。

退職とコロナ禍をきっかけに変わった生活

ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。
美術部にも入っていなかったし絵に関する勉強は全くしていなかったので、きっかけは特にないんですが、小さい頃から絵を描くのが当たり前で、習慣になっていたんですよね。ただ、ターニングポイントは2回ありました。

一つは、フランスへの渡航ですね。元々介護職に就いていたんですが、その中でクリエイティブなことをするきっかけというか、手段がないなと思って、仕事を辞める決意をしたんです。そのタイミングで渡航しました。

たまたまフランス人の友人がいるんですが、フランスに行きたいと話していたら、おいでと言ってくれて。急遽1ヶ月ほど滞在することになりました。それが2012年の話なんですが、その時が人生で一番よく絵を描いていたと思います。

フランス人のバカンスの時期はものすごい自由なんですよ。「15時に出かけようね」と言っていたとして、時間が過ぎても喋っていて。そこからピアスを選びはじめて、そろそろって頃に今度は電話が鳴って、結局出かけるのは17時、みたいな。そうすると、その2時間を持て余すんですね。なので、その待っている時間によく絵を描いていました。

あとは、日本はそれほど絵が売れる国ではないし、絵を描くこと自体もあまり評価されないけど、海外は違うんですよね。芸術家はすごく評価が高いんです。それで描くようになったというのもあります。

もう一つは、コロナの流行ですね。現在は映像制作の仕事をしているんですが、コロナ禍で現場に行くことが少なくなったんです。すごくミニマムなスタイルになって、一部の現場に出る人以外はリモートワークが中心になったので、時間ができて。それでまた絵を描き始めました。

ーフランスではどのように過ごされていたのでしょうか?
フランスへ向かった時、仕事を辞めたばかりで一文無しだったんですが、とりあえず飛行機代だけ父に借りて行ったんです。現地では、住み込みで友人のアシスタントのようなことをしていた、というと聞こえがいいのですが、ほぼ居候でしたね。

ただ、どこへ行くにも付いて回りました。絵を描くと喜ばれたので、フレンチタイムなバカンスの時期、待ち時間は沢山あったので、その隙間時間でいつも絵を描いていました。

封筒に入るようなサイズのパレットに水彩絵の具をつけておいたものと鉛筆をポシェットに入れて、いつでもどこでも取り出せる状態にしておくんです。日本が大好きな方が多かったので、要望に合わせて漢字を書いてあげたり、何か描きながら日本人ならではの手先の器用さを見せたり。そういうパフォーマンスのお礼として、ご飯を奢ってもらったり、服を買ってもらったりして生活していました。絵やパフォーマンスを生活補助の一環にするみたいな。おかげで現地では1ユーロも使っていないですね。

人との縁で繋がった今

ーそこから今のお仕事に就かれたのはどういった経緯からですか?
フランスから帰ってきて、何の仕事をしたら良いかわからなかった時に、ハローワークの職業訓練校の存在を知ったんですよ。お金をもらいながらパソコンも習えて仕事も探せるんだ!ということで、半年間Webデザインの学校に行きました。そこで私は本当にパソコンに向いてないなって思ったわけなんですけど(笑)。

そういった日々の中で、昔CMディレクターをやっていた方にApple Storeで出会いまして。その人がたくさん絵を描いてたので、絵を描くところを撮影させてもらって、訓練校で覚えた動画の作り方を駆使して編集して動画を作る、ということをしていたんですよね。

もう本当に気が狂いそうなほど楽しくて、何も知らないところからのスタートなので、スライドショーで写真が動いただけでもすごいと思うし、感動しながら夢中でやっていて。いよいよ仕事を探さないととなった時に、その方が「これだけ頑張ったんだからクリエイティブ関係の道を探したら?」と、今の会社に連れてきてくれたんですよ。こんなことは特例だと思いますけどね。本当に人との縁だと思います。

ー素敵なご縁に恵まれたんですね。
そうですね。それに、映像の制作会社がどんな仕事をするのか知っていたら、入らなかった気がするので、「知らないこと」はたくさんの可能性を秘めていると思いました。

ーフランスから帰って来られてからは、絵を描くこととはどのように向き合ってこられているのでしょうか?
時間があれば描く、みたいな感じですね。それからありがたいことに、今の仕事の中でも、教材のプレゼンテーション動画を作るのに自分のイラストを使ってもらったり、お料理本のイラストで野菜のカットを描かせてもらったり、そういうお仕事をちょこちょこっといただけていて。

あとは例えば、映像の中で子役シーンとかあると、子供のオーディションがあるんですよ。そうすると子どもたちがいっぱい来るんですけど、アンパンマンを描くとみんな泣き止むんですよ。そういったツールとして絵を使っていますね。パソコンとか機材に疎いので、この業界には向いてないなと思いながらも、こんな風にどこかに抜け道はあるんだなと感じています。

ー絵に関するお仕事は、現在の会社から繋がったご縁が大きいのでしょうか。
そうですね。映像というと、皆さん映画・CM・ドラマとかのイメージがあると思うんですけど、例えばDVD付きの本とかいろんなものがあるんですよ。一度、簡単なアニメーションに使用するイラスト素材を私が描いたのをきっかけに、絵の特別講習を組んでもらって講師をするようになりましたね。そこから教える側に少しずつ変わっていきました。

ー個展もよくされていらっしゃいますよね。
はい、コロナ禍から少しずつ個展をやり始めました。

いろんな繋がりで絵を飾る機会、個展をする機会にも恵まれて、ようやくアーティストと言えるぐらい、人並みに何か作品が作れるようになりましたね。

 

自作の絵本のキャラクターなどを描かれている絵画たち

私、経済学部経済学科出身で、美術に関する経歴が何もないので、講師経験を積んだカルチャースクールのことなどを書けるのはありがたかったですね。ホームヘルパー2級とか手話検定3級とか2級みたいな、全然関係ない資格ばかりなので(笑)。

ー逆にそういう経歴でも絵は描ける、というアピールにもなりそうですね。
そんな風に伝わってほしいですね。絵で食べてくことは本当に大変ですが、絵に正解はないし、どんな絵を好きになるかは人それぞれなので、どんな人でも挑戦してもらいたいですね。ECサイトに絵を出品することは誰にでもできる。勇気を持ってほしいなと思います。

私は上手になろうと思ったことがないんですよ。上手の基準なんてないと思っているし、絵は人それぞれの好みだという考えなので、好きか嫌いか、だけですね。

最近は老後の趣味とか、生きがいみたいなものを求めて習いに来る方が増えているんですけど、始めるのは少しでも早い方がいいと思っています。人と話したことや見たものなど、そういうものは必ず絵に出てきますが、出てくるまでには時間はかかるんですよ。頭で考えていても、YouTubeを観ていてもだめで、手を動かしてこそ出てくるものなんです。そういう魔法のようなものがあるんです。

だからやりたいと思っている人は、本当に今すぐ始めてほしいなと思います。

タイムカプセルのように記憶を残す手段として描かれた絵

ーこういう絵を描きたい、こういうことを伝えたい、等はご自身の中で決まっていらっしゃるのでしょうか。
フランスには72の天使にまつわる話があるんですが、それぞれの天使を描けたらいいなと思っています。ある時、友人のバースデーエンジェルということで、良いことが起こりますようにという気持ちを込めてぽっと描いたことがあったんです。それが意外とかわいくて。数を考えると骨が折れそうですが、これから時間をかけて、72枚揃えられたらいいなと思っています。

 

Noenoeさんの天使の絵画(作品名:「Caliel」)

あとは、父方の実家が輪島塗りをやっていたので、長期的な輪島のサポートができたらいいなと考えています。祖父の代で引き上げているので、もう直接的な関係はないんですけど、私も蒔絵師?の血を注いでいるのですもんね。2024年は蒔絵の図案をヒントに、和テイストの作品を描きました。

輪島塗と言えば黒と赤が多いんですが、父が火事を思い出してしまうそうなんです。近頃は物騒なことも多いので、気持ちを鎮めるという意味も含めて、青くてどこか日本人らしい繊細な感覚を残せるような和柄のものを、描きたいと考えています。

ー景色を見てというよりも、気持ちを落ち着かせてほしい、とか、応援するような気持ちから作品を描かれることが多いのですね。
全部が全部そうというわけではないのですが、輪島塗の紋様をあしらった作品に関してはそう思うことが特に多くありましたね。なので、そのシリーズを購入いただいた売上は、クラウドファンディングなどで輪島に送っていました。

絵ってそんなに狙って描けるものではないので、日常の中の会話を元に作っていることが多いですね。例えば、フランスに行ったことで天使を描いたり、誰かと話していたものを描いたり。だから私にとって、誰と会うのかということはすごく大事なんです。その日、誰と喋ったか、どんなものを食べたとか、そんな大したものじゃないんですけど、そういうきっかけが大事ですし、そこから生み出されているなと思います。

ーご自身の経験から表現するきっかけが出てきて、それを描いていく。
はい。人間は忘れたくないものを何か残すんですよね。例えばこの景色が良かったとか、このセリフを聞いて感動したとか、忘れたくない衝撃や印象を与えられた時に写真だったり、詩だったり、音楽や踊りだったりするかもしれないですが、何かしら形として残していく習性があると思うんですよ。

私は、今でこそ写真を撮りますし動画も作れますけど、当時はそういう手段がなかったので、絵にしたんだと思います。自分の何か強く持った記憶ですよね。このことを忘れたくなかったし、このことを残したかったんだなって。おもしろいのが、描いたその瞬間はそれが何かわからなくても、後から見てみると紐づいているというか、記憶が呼び起こせるんです。

自分が10年前に描いた絵が、今はこれになってるとか結構あります。あのときの丸はこれを予期してたんだみたいな(笑)。

フランスに渡航した時も、その時はわからなかったけど後から作品になった物事が多くあります。新しい環境の中にいると見えるものがみんな違って。光も花も、光線の加減なのか日本とちょっと色彩が違うんですよ。そういう記憶も、絵と共に残っているなと思います。

同じルーティンの中で生活してると気付きにくいかもしれませんが、環境を変えたり、言語が変わったりすると、より気付きやすくなるかもしれないですね。

ー今後やってみたいことがあれば教えてください。
いくつになっても続けられる趣味というか、通える場所が自分も欲しいし、皆さんにも残したいと思っています。

今自分は、勉強のために絵本のコンクールとかに応募しているんですよ。その作品が溜まっているので、それをもう一度見直して描き上げて、紙芝居式に読み聞かせをしてみたいですね。

あとは、私は自分で絵を描くことも人に教えることもするので、生徒さんの絵をギャラリーに並べる、みたいなこともやってみたいですし、皆さんにも、コンクールに出したりECサイトで絵を売ったりなど、たくさん挑戦してもらいたいですね。

絵画に関する様々なことの敷居をより低くして、誰もが挑戦できるような、そんな気軽に学べる場所を作りたいです。

Noenoe

Noenoe

介護職からフランス渡航を経て、映像の制作会社へ転職。映像業界で働く側、絵の講師としても活動中。自身の経験や日常の中で感じたことを表現のきっかけとして、作品を描き続けている。

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