Interview

目に映る色や形を破壊していく|心の自由さを描く意識

幼少期に手に入れた自由が「絵を描くこと」だったJ.さん。様々な色の重なりによって表現されている温かな絵のこだわりは、「破壊する」こと。

どのような経験の中で、絵を描くことと向き合って来られたのか。J.さんにお話を伺いました。

左手に許された自由が「絵を描くこと」だった

ー絵を描くようになったきっかけというのは?

絵は物心ついた時からずっと描いていましたね。左手が利き手だったのですが、左手を使えるのが絵を描く時ぐらいだったので、必死になって描いていました。

ー利き手を使えるのが絵を描く時だけ、というのはかなり不自由だと思うのですが。

当時は利き手の矯正があった時代で、小学校に上がる前には字を右手で書けるようにするのが普通だったんですよね。それで、普段は左手を使えないよう、ぐるぐる巻きにされていて。笑

「レオナルド・ダ・ヴィンチは左利き」というのが有名だったおかげで、絵を描く時だけは左手を使っても良いということになっていました。そこから、ストレスが溜まればとにかく絵を描くようになりましたね。

絵画教室で教わったことは「遊ぶこと」

ー今描かれているものは油絵が多いと思うのですが、いつ頃からご興味を持たれたのでしょうか。

油絵は、10年ぐらい前からですね。絵画教室に通うようになってから、描き始めるようになりました。絵画教室の先生がたまたま教えてくれたのがきっかけです。

ー絵を描く時のこだわりはありますか?

「破壊すること」にこだわっていますね。と言っても小心者なので、つい目に映っている形に整えていってしまいがちになるのを、違う違うっていう感じで。もっと色にこだわってみたり、気持ちみたいな目に見えないものの形に変えられるように、って描いています。

絵画教室でも、先生に「形に引っ張られやすいから、もっと遊びなさい」ってよく言われてて。作っては壊しての繰り返しで絵は完成されていくという教えの元、「ここをこうしたい」「形はこうだろう」とこだわらず、「形じゃないよ」って常に自分に言い聞かせてますね。

目に見えている色をそのまま載せるんじゃなくて、その色以外の色も混ぜてみるとか、そういうことも意識しています。例えば木陰って言ったら、グレーじゃなくて緑や紫、青を入れてみるとか。あえてそこにこの色を使ってみるとか。試行錯誤の日々ですね。

ーとても素敵ですね。形に囚われやすいJ.さんと、まさにそれを「破壊」していく先生との出会いは大きなものだったんじゃないでしょうか。

大きいと思います。色にこだわることや、自由にやるっていうのも、そこから考えるようになっていったので。

絵画教室でも、1週間同じモデルの方を描くんですが、モデルの方がポーズを思い出せない時は、いつも私のところへ来られるんですよね。写真は撮っちゃいけないので、ポージングの写真が残ってなくて。だから写真の代わりに私の絵で確認されるんですが、ダメだなと思って、常に形を壊すことを意識しています。

過去の経験や感情から描かれる絵

ーそこからこの温かみのある、気持ちのこもった作品が生まれているんですね。

ありがとうございます。以前は冷たいってよく言われていたので、温かい絵と言っていただけると嬉しいです。

小さい時はもう形にこだわっちゃっていて、いかに目の前にいる人をより忠実に描くかに一生懸命だったんですよね。そのせいかお人形みたいとか、冷たいってずっと言われていたんで。そこがちょっとでも崩れてきて、目指している温かい感じや人間味が出てきたらすごく嬉しいですね。

ーモチーフはどのように決められていますか?

経験したことが、1年後ぐらいにちょうど絵に出るようになるんですよね。あとは教員免許も一応持っていて、西洋史やギリシャ神話などから、というのもありますね。

今は子供たちを描きたい気持ちが強いんですが、1年前ほどまで学童で働いていたのが影響しているのかなと思ってます。

作品名:絵本より

当時のことを思い出しながら描いているんですが、やっぱりみんな元気にしているかな、会いたいなという想いが絵に表れてきますね。最近は推しもできて、ライブとかにもいくようになったので、またちょっと今後変わっていくと思います。笑

ー経験に影響されながらどんどん描きたいものが変わっていくのも、まさに人生を描いているようですね。

猫とも8年ぐらい一緒に住んでるんですけど、何故か今までは描こうと思わなくて。でももう8歳9歳になってきて、いつお別れになるのか分からないので、今のうちに描いておこうって思ってます。太らせすぎてタヌキみたいなんですが(笑)

もう見本らしい見本も見ず、記憶に刻まれた姿だけで描いているので、自分の子供にも「猫だけぼやっとしている」って言われています。人物はちゃんと描写して写実的になっているのに、猫だけぼんやりしているっていう。

どの写真の猫も違う、うちの子じゃないって思って、結局記憶の中で描いてしまう感じはあるんですよね。写真も撮るんですが、なかなか上手く撮れないです。笑

キュレーターとして活動されていた一面も

ー幼少期から切り離せない存在となっていた絵ですが、ずっと描き続けていらっしゃったんですか?

元々、育児や仕事と絵を描くことの両立が難しくて、一時的に絵を描くことから離れていたんですよね。その後子供たちが手を離れたので、今は好きに描けるようになりました。

ーでは育児を機に離れられるまでは、絵に関わっていらっしゃったのでしょうか?

実は漫画をずっと描いてたんですよね。『エースをねらえ!』とか『ベルサイユのばら』なんかがすごい世代で、真似して描いたりもしていて。笑

主人とは大学の漫画研究会で出会ったんですが、結婚した後主人はプロの漫画家になって、私は育児をして…という感じですね。

ーキュレーターとして活動されていたこともあるそうですが、ぜひ具体的なお話を聞かせてください。

キュレーターはメインの仕事ではなく、バイトとかでちょっとお仕事していただけなんですけどね。警備のお仕事なんですけど、キュレーターも出来ますっていうので、ちょこちょこ美術館の裏方のお仕事をちょっとお手伝いして、他のキュレーターの方ともお話しして、という感じです。

並び順で画家さんの成長が感じられるようにっていうのは、こだわられていますね。ルノワールにすごく影響を受けたピカソが描いた絵が、ルノワールの絵の向かい側に飾られているとか。そういうの面白いですよね。

ー単純に眺めるだけでも面白いですが、やっぱり歴史や背景を知っていると、より興味深く楽しめますね。

そうですね、ゴーギャンとゴッホの間柄とか、そういうのも絶対面白いと思います。

新しい試みは「初心にかえる」こと

ー今後挑戦してみたいことはありますか?

鉛筆素描(デッサン)を最近始めたんですが、自由な感じで描くために、一度鉛筆に持ち直して描いていきたいなと思っています。見えるものじゃなくて見えないものを形にしていくっていうのを。

もうちょっと納得のいく絵を描けるようになりたいんですが、なかなかそこに行き着かないので、どうやったら辿り着けるかなっていう。

まだまだ型にハマりすぎているんじゃないかと思って、鉛筆で好き勝手漫画を描くように描いてみたらどうかなと、ちょっと今始めているところです。

目の前にあるものじゃなくて、こんなものがあればいいな、みたいな物を表現していけたらと思います。

J.

J.

幼少期から絵を描き続け、大学時代には漫画研究会へ。ライフステージの変化に伴い一時的に絵の世界から離れたものの、その後キュレーターなどを経験。 現在は過去の経験をモチーフに、形にこだわらないよう自由な色と想いで表現することを追求し続けている。

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