宝石箱のような綺麗さに魅入られて始めたパステル画
ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。
子供の頃から人見知りで、言葉で自分の意思を伝えるのが苦手だったので、「言葉の代わりに絵を描く」というのがきっかけと言えるかなと思います。いつもお母さんの後ろに隠れていたり、学校でも教室の片隅でいつも何か描いているような子供で、昔から生きづらい人だったんですよね(笑)。
絵は物心ついた頃からずっと描いていて、小中高一貫してクラブや美術部に所属していました。社会人になってからは、約3年ほど通信教育で学んでいましたね。
でも、そういうところって「上手く描けるように」勉強するじゃないですか。「写真のままデッサンする」みたいなのが自分には合わないなと思って、通信教育は辞めて、そこから自分の中から見える世界を模索し始めるようになりました。
「写真は写真のままが美しいな」と思っていて、私がそれ以上描くのは違うな、というか。それよりも、自分の中の世界を描こうかなと。
子供の頃からアラフォーになるまでずっと仕事しながら絵を描いて、結婚や子育てをしながら今に至ります。ひたすらに「好き」を貫いて、不器用な人生と共にここまで来ました。
ー「好き」という気持ちは大切ですね。パステルで描き始められたのはなぜでしょうか?
画材屋さんに行って、パステルが綺麗な色で並んでいる箱を見た時、その綺麗さに「宝石箱みたいだ」と感動しまして。それで、「色が作ってあるなら、この綺麗な色を使えばいいや」と思って、中学生の頃からパステルを使うようになりました。
というのも、元々特に画材は問わず描いていたんですが、小学生とか中学生の時はほとんど、授業で使う不透明水彩を使っていたんですよね。ただ、小中どちらの先生にもずっと色についてダメ出しをされていたんですよ。
例えば「夕方の雨上がりの空を描きなさい」って言われたとき、「紫からオレンジのグラデーションが美しいから、それを描きたいんです」って言ったらすごく怒られる、みたいな。「オレンジじゃないとダメでしょ」って。
当時私が教わっていた先生は頭が固くて、赤と緑の補色同士の美しい組み合わせも、「そういう色を使うのは信じられない」と言われたりして。
そんな先生ばかりに当たってしまったので、自分で色を作るのもトラウマになり、ずっとパステルで描くようになりましたね。私に絵を描ける道を残してくれた、唯一の選択肢です。先生のご指導も今ではおかげ様で、何が幸いとなるか分からないですが(笑)
ー画材屋でパステルを見つけたのは、良い出会いだったんですね。
そうですね。私の描く絵って、あまり影がないようなふわっとした絵なんですよ。私自身も、ふわっとした掴みどころがないような感覚的な性格で。そういう性格的なところと表現したいものが一致したのも、良かったのかなと思います。
パステルは、色だけのせるように塗ったあと、指で擦って色を伸ばしていく感じがすごく気持ち良いんですよね。指や綿棒なんかで伸ばしていくんですけど、「ふわぁ〜〜」っと色が広がっていくのが最高に良くて。
あとは、吹けば飛ぶような儚さや美しさ、定着液スプレーで色を固定する前なら全部消そうと思えば消せる部分も良いなと思います。
パステルは顔料そのままで描く分、他の技法に比べて散らばりやすいので、自由すぎて大変な部分もあるんですけど。
私の場合は思い切って勢いで描いた時ほど上手くいくことが多いので、子供みたいな気持ちで素直に表現することを意識しています。もっと上手く描いてやろうとすると、大人の不純な気持ちが入って絵が全然ダメになってしまうので。
ー他の画材も色々試されたんですか?
結局メインはパステルに戻ってきましたが、アクリルも油絵もやりましたね。
描きたい願望が強くて画材が大好きだったので、子供の頃からバイトをしたりしてちょっとずつ貯めたお小遣いで、色んな画材を買って増やしていくのが楽しみでした。
教えられるのは嫌でも、自分で好きなように描くのは好きなんですよね。大して上手くもないし個性もないのに、どうしても「自分の世界の中だけで描きたい」という頑固な気持ちがありました。
私にとって「絵を描くこと=生きること」で、絵に生かされているような感じです。絵を描くことがなかったら、本当に「何のために生きているのか分からない」人生でした。絵の中はココロ生きる世界だと思っています。
私の人生の楽しみは幅が狭いので、絵を描くことがなくなったらどうなるんだろうと思います。
自分の中の世界観を描いていく
ー絵を描く時のこだわりを教えてください。
絵を描く時は完全に自分の世界の中なので、こだわりはないですね。ただ、内気で生きづらい自分の中が暗闇だとして、そこから見える外の風景はよりいっそう輝いていて綺麗だなと。だから、自分のこの暗がりから見える世界を、風景として描きたいなと思っています。
例えば、お腹がすごく空いた時ほど、食べたご飯はよりいっそう美味しく感じるし、暗がりから見上げる月が煌々と輝いて美しい、みたいな。
そういう、常に自分が暗がりや深い海の底にいて、そこから見える外の美しい景色をイメージして描くというのはあります。これはこだわりと言うんですかね(笑)。
ーすごくこだわりだと思います(笑)
じゃあこだわりです(笑)。そこですかね、1番大事にしているのは。
「もっとこの先に見える美しい風景はなんだろう、夢を見させてくれるようなあっちの美しい景色は、こっちへ行ったらどうだろうか」とか、ちょっと夢を見るような感じの世界観ですね。
モチーフも深く考えず、風景だったりその時綺麗だと思えるもの、例えばクジャクだったりとか。あとは自分の中で空想する建物や生き物ですね。実際の風景を見て描くわけじゃないので、頭の中の想像を具現化するように描いています。
モチーフとかにもこだわりがあれば、個性が出ると思うんですけど、これっていうこだわりが無いので、私の作品は個性が無いなと思っているんですよね。個性が無いのが個性というか(笑)。なので、私の絵を見て「私の作品だ」って気付いてもらえるのはすごく嬉しいです。
ー絵を描いている中で、これは転換期だったなというタイミングはありましたか?
自分の世界が広がったことは、転換期だったかもしれないですね。最初の頃は、自分が何を描きたいのかが分からなかったんですが、他のアーティストさんと交流したり、こういう絵が欲しいというリクエストをいただいたりしていて。
それを「描いてみよう」と思ったら意外と描けたので、「こういう引き出しがあるんだな」と気付いて、色んな絵を描くようになりました。
昔は風景画よりも人物画とか動物画が好きでよく描いていたんですが、あまり人気がなくて(笑)。ただ、依頼をいただいて、ペンとかアクリルを使った仏画や人物画も描いてはいます。パステルだと細かいところが描けないので、やむを得ずって感じですね。基本的には、パステルの方が自分らしさが出るかなと。
絵に表現されている感情を読み取る
ー影響を受けた画家やアーティストはいらっしゃいますか?
1番は黒井健さんです。『ごんぎつね』というお話の、表紙絵を初めて見た時の衝撃といったらないですね。最初はパステルで描かれたのかなと思っていたんですが、実は色鉛筆で描かれているんですよ。それも油彩色鉛筆を、油絵用の筆を洗うための筆洗油を使ってコットンにとって、色を紙に塗って吸わせていくという技法で。あまりに細かく描かれているので、「どうしてそんなことが出来るの」と衝撃でした。『ごんぎつね』自体は悲しい物語ではあるんですが、黒井健さんと作者さんの愛が伝わってくるような、あの表紙絵がとても好きです。
あとは、葉祥明さんやアメデオ・モディリアーニ、マルク・シャガールとか、好きな画家さんはたくさんいらっしゃいますね。メジャーな画家さんの作品はよく美術館で見るので、そこで初めて知って、好きになりました。
絵を描くのはもちろん、観るのも好きなので、「画家さんの世界に浸りたい」と思うと美術館に行きます。小学生の頃から、大人になっても、時間がある時はずっと美術館巡りはしていますね。
その世界を感じて、「自分も絵を描きたいな」という描く力を掻き立てられるというか。あの静かな世界も好きで、静けさの中にある、絵という作られた固形物に表現されている感情を読み取るのが、すごく好きです。
絵を描きたい時は、現実逃避もあるのかなと思います。気持ちの余裕がある時じゃないと描けないんですが、「ちょっと絵の世界に入りたい」と思った時ほど描きたくなるので。
人との縁を大切にしながら描いていきたい
ーこれは代表作だなという作品があれば教えてください。
代表作っていうと難しいですね…(笑)天使のシリーズも好きですし、普通の風景画や空を飛んでいる船の絵も好きです。
「光=希望」みたいな精神性があるので、見ると心地よく癒される世界観を描きたいという想いは持っていますし、光を大切にしているなというのはありますね。
ー今後挑戦してみたいことはありますか?
不慣れなので今まで避けていたんですが、絵を描いているところを動画に撮りたいなと思っています。本当にただ絵を描いているだけなんですけど、自分にとってみれば大きな前進なので、頑張ってみようかなと。
それをきっかけに、他の方とやり取り出来るようになれたら嬉しいですね。色んな人と関わって、色んなものを作っていくのが楽しみです。
なかなか時間的に許されなくて、自分だけの個展とかもやったことがないので、いつか時間があればやってみたいですね。
RAKKO
幼少期から絵を描き続け、中学生の頃にその色彩に魅入られたことをきっかけにパステル画の道へ。自分の世界の中から見えるより美しい景色を、光にこだわりながら柔らかなタッチで描き続けている。
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