Interview

アーティストとしての信念を描く|絵が自分を助けてくれる

油彩やアクリル絵の具で色鮮やかな作品を描くKnightTimeさん。様々な分野から得た知見で自由に制作されています。どのような考え方や経験から描かれているのか。KnightTimeさんにお話を伺いました。

療養のために描き始めた絵

ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。
最初に描き出したのは、2歳か3歳ぐらいだと思うんですが、言葉で上手く説明できないときに伝える「もう一つの言語」として馴染んでいました。

当時、テレビか何かで見たピエロが怖くて、その恐怖を表現しようとピエロの絵を描いたことがあって。自分としては、「怖い」と感じたものを描いたので、その絵を見た人からも「怖い」と言われると思っていたんですが、親には「可愛らしい」と言われたんですよね。

その時に、「同じものでも感じ方が違うことがある」もしくは「自分が怖いと思っていても、実は怖くないものなんじゃないか」ということが分かって。言葉で思ったように伝えられないときに、誤解を解くための道具として上達していきました。

あとは、芸術療法もきっかけですね。高校時代に色々あったのと、大学入学以降の人間関係が原因で、いわゆるうつ病になったことがあって。本屋で色んな精神関連の病気に関する本を読んでいた時に、芸術療法の存在を知って絵を描き始めました。

個人的に、絵を描くことはそこまで好きでも得意でもないので実感はなかったのですが、世間一般として「芸術方面が得意分野」だと言われる特性に自分が当てはまったので、もし適性があって世に必要とされることがあるなら、「やってみる価値はあるんじゃないかな」という。ちょっと消極的な理由です。

初期の作品(作品名:描けなかった自画像)

ー絵が好きという気持ちからではなく、療養ありきでのスタートだったんですね。
芸術療法を理由に絵を描き始める人が現れる社会を恥じてほしいという想いはありつつ、描けば褒めていただけるので、ちょっと複雑な気持ちではあります(笑)。

でも、絵にはすごく感謝していますね。落ちてしまった自分を支えてくれたり、ダメだったときや挫折したときに受け皿として助けてくれたりする、「自分には最後に絵が残ってるらしい」と感じさせてくれるような存在です。

芸術はみんなのもの

ー絵を描く時に気をつけていることはありますか?
精神的な部分で言うと、順番を間違えないことですね。これは「作品」と「人間」の優先順位をたまに間違えてしまうことがあるので、絶対に逆転しちゃいけないっていう理念を持っています。

例えば、絵を描いている時に他の人から声をかけられると「今いいとこなんだ、声かけないで」みたいな悪態をついてしまうことがあるんですが、これはダメだなと。人に楽しんでもらうために芸術があるのに、何のために絵を描いているんだということは、きちんと考えるべきことだと思っています。

自分を俯瞰して、「正しい気持ちで描いていますか」という問いかけに対して肯定できる状態を大事にしてますね。

同じような理由ですが、例えば作品に対して批判を浴びてしまうことに関しても、「作品を出したからには覚悟は決めておくべき」という心構えでいます。人の心にある汚れたものを綺麗にするのが芸術家の仕事なので、むしろそういう人に悪口言ってもらうぐらいでちょうど良いんだという。「黒いキャンバスを黒い絵の具で塗っても白くならない」という言葉が、自分の中に信念としてあります。

ー信念を持って描かれているんですね。他に気をつけていることはありますか?
物理的な話で言うと、絵の中にゴミが入らないようにするとかですね。どうしても、古い絵の具を使ってると上の方が固まっていて、ちょっと絵の具の塊が入っちゃう場合があるんですよ。その状態でグラデーションを作ると、いらない線が入ってしまうことがあるので、できる限りその小さい絵の具の塊や粒を取るようにしています。

もう一つ、一部描いている作品もあるにはあるんですが、基本サインしないというのもありますね。ちょっと矛盾した話ですが、自由な鑑賞を妨げないように、できれば作者はキャンバスの前に立たず、後ろに隠れて黒子に徹するべきという考えを持っていて。

もちろん、もし「この絵を描いた作家さんはどんな人なんだろう」と興味を持ってもらったらちゃんと答えますが、そうでない人にまで先に作者が顔を出して「これは私の描いた絵です!」って言うと、自由に鑑賞できないんじゃないかなと。

「芸術」はみんなのものというか、その作品が偶然自分から生まれただけであって、別に他の人が描いても良いんじゃないかと考えているんですよね。平たく言えば、みんなと仲良くなるとか、差別や区別のない世界を目指すといった側面を持っているものなので、「誰の作品」でも本質は同じなんじゃないかという感覚です。

もちろん色んな意見があると思うんですが、私はそういう発想で描いてます。

主役は背景

ーモチーフはどのように選ばれているのでしょうか?
基本的には、何となく「良いな」と感じたものを描いていますね。

「街灯」を描いている作品で言うと、写真の映り方を絵の方に逆輸入するような勉強の仕方をしていたのがきっかけに、「背景」を描くためのモチーフとして選びました。

例えば、ピンボケとかレンズフレアとか、カメラじゃないと存在しないような効果があるんですよね。そういうカメラの性質から絵の表現っていうものを見つけていこうと、特にボケる表現について調べていた時、背景がボケているので、前にピントを合わせるものを置かないと背景が背景にならないことに気付いたんです。なので、背景の前にある程度存在感がありつつも背景を邪魔しない、細長い何かがあると良いなということで、どんな背景にも合う「街灯」を選んで描いていました。

本当に描きたいのは後ろの背景なので、「街灯」は主役である背景を「背景」として成り立たせるために置いているモチーフですね。

作品名:sea or cascade

でも最近は考えがちょっと変わって、「モチーフすらいらないな」と。絵は部屋に飾ると思うんですが、前景に当たる部分って、手元にあるものだったり、テーブルやテレビだったりと、すでに生活の中で背景となっているものなんですよね。なので、「自分の絵には背景の前に何も描かなくていいんだ」というのが、ずいぶん前に分かったことでもあります。「飾りやすさ」という点でも、そういう答えになりましたね。そこから、今のグラデーション作品の制作に繋がりました。

もう一つモチーフとして街灯を選んだ理由は、アーティストとしての信念ですね。自分を街灯に置き換えて表現しているというか、自分自身のシンボルにもなっています。

街灯は、日中明るい時は暗くて、夜暗くなったら明るくなるじゃないですか。もちろん、明かりで暗闇を照らすことが目的で置かれている物なので当たり前なのですが、「周囲と逆のことをしている」ようにも受け止められて。自分の性質的にも、「空気読めないな」と思われながらも、周りと同じことをすることに怖さを感じて真逆のことをしてしまうので、集団心理に抗う自分の気持ちの象徴としても描いていました。

ーなるほど。ワイングラスをモチーフとしている作品もありますよね。
ワイングラスを描いている『アニバーサリー』シリーズは、他のアーティストさんとの交流の中で、ワイングラスの題材をいただいたことがきっかけですね。「透明なものって綺麗だな」と感じてから、透明表現に関心が高まって、ワイングラスも描くようになりました。アニバーサリーのシリーズは結構背景をピンボケにしてるものが多くて、この時は透明感と光を用いた背景表現の両方を練習していましたね。

『アニバーサリーⅥ』という作品だと、炭酸で下から泡が上がっていて、上の方にある花びらが散って回っているという、心臓のようなエネルギーの​​流れが作れたので、「生命感をそういう形で表現できる面白さが絵にはあるんだな」という気付きもありました。

作品名:アニバーサリーⅥ

数学だと正則分割とも呼ばれる、同じ形のものを互い違いに敷き詰める方法で描いた作品もあるんですが、これはラッピングペーパーのデザインから興味を持ったものですね。

うつ病になった後、社会復帰に向けて通っていた就労移行支援で企業実習があったんですよね。お世話になっていた企業の社長さんが気さくな方で、絵を描いていることを伝えたら「ラッピングペーパーのデザインをしたらどうだ」というお話をいただいて。そのデザインをきっかけに、「どこを切り取っても大体同じようなデザインになるパターン」に興味を持って、生まれた作品です。

作品名:ボトルネック・マトリクス

作品に合わせた画材選び

ーアクリルも油絵も描かれていますが、画材はどのように使い分けているのでしょうか。
原画主義と複製主義の視点で使い分けています。

原画主義は、とにかくその作品が良ければ良いという考えです。コピーや撮影をしたらその作品の味が落ちてしまうような作品は、油絵の具で描いていますね。油絵の具自体、そういう性質が強いものなので、原画そのものをインテリアとして飾ることを想定している場合は、油絵の具で描いています。

反対に、撮影したり複製したりしても比較的作品の味が劣化しないという作品は、アクリル絵の具ですね。元々アクリル絵の具そのものが、ポスターに使用することを想定している画材なので、印刷することを見据えている作品は基本アクリル絵の具を使用しています。

ー今後やってみたいことを教えてください。
紫や褐色系のグラデーションがちょっと難しいので、綺麗に描けるようになりたいですね。紫とかは、顔料ではなく染料としての性質が強い絵の具が多いみたいで、他の色と塗る時の勝手が違うんですよね。

これは技術というより勉強が必要なところかもしれないなと思っているので、今後勉強しつつコントロール出来るようになりたいなと思っています。

あとは、西洋風景を和風の画材で描いたら面白いかもしれないなと思いついたので、そういうのもやっていきたいですね。何度かゴッホのカフェテリアとかをオマージュして描いているんですけど、水墨画などを使って和風オマージュするのも面白いかもしれないと考えているので、時間がある時にまたやりたいなと思います。

KnightTime

KnightTime

芸術療法をきっかけに、本格的に絵を描き始める。人に楽しんでもらえるような作品を制作。様々な分野に興味をもち、そこから絵の表現へと繋げている。

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