Interview

絵を描くことで得られるものが好き|周囲の環境から受けた多くの刺激

アクリル絵の具で鮮やかな作品を手がけるchicoさん。生き物や人物をメインのモチーフに、想いのまま描かれています。どのような経験や考えから描かれているのか。chicoさんにお話を伺いました。

周囲から刺激を受けて活動していた20代

ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。

幼少期から絵を描くことは好きで、見よう見まねで趣味の一環として描いていました。20代の頃には色々活動していたものの、途中から全く描かなくなり、20年ほど経ってコロナ禍をきっかけに、今また絵を描き始めています。

学生の頃はイラストやファッションに興味があったので、服のデザイン画のようなものを描いていましたね。高校卒業後の進路を決める時に、留学をするかファッション系の専門学校に行くか迷っていたんですが、学校は行っても辞めそうだなと思って、高校卒業後すぐに海外へ留学しました。

ただ、専門学校には行かなかったものの、留学から地元に帰ってきた後は東京に上京し、前から気になっていた美術学校に通いました。

ー美術学校はいかがでしたか?

当時、ファッションイラストレーターの第一人者として知られる長沢節さんが開設された「セツ・モードセミナー」という美術学校に通っていたのですが、授業の内容はひたすら人物デッサンをするという実践スタイルで、飽き性の私は学校をすぐ辞めてしまいました。今思えば、周りの環境に影響されて絵を描いていたので、情熱が足りなかったんだと思います。

でも、この美術学校に通えたのは貴重な経験でしたね。

美術学校に通いながら、描いた絵をポストカードにして下北沢の路上で販売したり、バンドに依頼されてフライヤーに載せる絵を描いたりという活動をしていました。

色々な縁があって、友人とか仲間に誘われて活動していたんですが、映画監督になりたいとか自分の服を作りたいという夢を持っている人がたくさんいて。そういう周囲の環境に触発されていましたね。「良いじゃん良いじゃん」って言ってくれるから、仲間と一緒に活動をしていた、みたいな感じです。

当時描かれていたポストカード

 

海の綺麗さに心奪われ、絵描きを再開

ー絵を描く活動を一度辞めた理由は何だったのでしょうか?

仲間と一緒に活動していた頃は「みんなもやってるし自分もやろうかな」と思えてたんですけど、周りの環境が変わった時に「自分1人でやろう」とは思わなくて。無理してまで絵を描こうとはしていなかったので、そのタイミングで自分も絵を辞めました。その時は、もう一生描かないだろうなとまで思っていましたね(笑)。

ーそこから20年ほど経って、再度絵を描き始めたんですね。

コロナ禍で働いてた会社が事業を縮小して、そのタイミングで会社を退職したんですよ。退職後しばらく仕事をしていない期間があったので、その時にまたふと絵を描きたくなって。今度は自分から「描いてみようかな」と思って、描き始めたら楽しくなっている感じです。

上京した時は湘南のエリアに住んでいたんですが、退職して地元に帰郷した時「海がすごく綺麗」だなと思って。湘南にいた頃も、近くだったので普通に海へ遊びに行っていたんですが、やっぱり南の海の綺麗さは圧巻で。地元の海がこんなに綺麗だったなんて知らなかったなと、そこから海にハマり、部屋に飾る海モチーフの絵を描こうかなと思い始めたのが、絵をまた描き出したきっかけになりましたね。

アクリル画初期の作品

アクリル絵の具を使って描くのは、退職後が初めてですね。キャンバスに描くのもほぼ初めてぐらいで。発色も良いし、光や経年での劣化も少ない、油絵の具とかに比べたら安価ということもあって、そこからずっとアクリル絵の具で描いています。あとは、蛍光色の発色も好きでよく使っています。

油絵の具は、学生の頃に油絵クラブというのに入っていた時にちょっと使ったことがあるんですが、匂いもするし、あまり手軽でないイメージがあったので、アクリル絵の具の、匂いが少なくて乾きが早くて水に溶ける、という手軽さにも惹かれました。

今となっては、美術系の学校とかに行って、専門的なこととかは学ばなくてよかったなと思ってます。もちろん、学校などで学ばれて素晴らしい方もたくさんいるので、否定するという意味ではなく。何にも縛られずに自由に描ける方が、私には合っているなと思っています。

キャンバスに載せた色から広がる世界

ー絵を描くときのマイルールを教えてください。

「気分が乗らないときは絶対に描かない」というのと、完成形は考えずに描いています。「何を描くか」というのは漠然と決まっているんですけど、頭で考えないようにしていて。下描きもほとんどしなくて、ぼんやりとパーツの位置を決めるぐらいですね。作品によっては、何も下描きせずいきなり色を載せ始めて描いています。

アクリル絵の具は何度でも描き直せるので、まずは真っ白なキャンバスに色を載せて、そこから広がるイメージに合わせて描いていく感じですね。

色の使い方でいうと、光や影は、明るい色・暗い色で描くというより、全く違う色に変えて描いています。例えば、赤いところの影は赤に黒を混ぜて描くんじゃなくて、緑とか青とか全く違う色を使うみたいな感じです。なので、濃い色が強めになります。

作品名:Bright

 

ただ、色彩に関することは全く学んでいなくて、描いている時もほとんど何も考えていないです。ただ描くことが楽しいというか、描くことは自分の中のエネルギーを外側に出しているような行為なんですよね。

言葉で上手く説明できないんですけど、すごく集中しているけど心の中ではふつふつと燃えているような、戦っているような気持ちで描いているときもあって。多分、その感覚が好きで描いている部分もありますね。

自分的には自分の絵はすごく眩しくて、全然落ち着かないんですよ。描いている途中の絵も、作業中以外は裏返しているぐらい(笑)。普通部屋には落ち着く絵を飾りたいと思うので、私の絵を買ってくださる方には感謝でしかないです。

モチーフは、動物とか虫とか、自分が好きだと思うものを描いています。人物画は、女性の方が色気とか魅力を感じるので、男性より断然女性を描きますね。

ー最初に丸いキャンバスを選ばれたのはどういった理由からですか?

「飾りたいし、描いてみたい」と思ったからですね。学校とかで描く画用紙も基本四角ですし、丸いものに絵を描いた経験がなかったので、挑戦してみたくなりました。

実際描いてみてもすごく楽しかったので、気に入ってます。やっぱり四角い支持体に描くのとは、中心の取り方とかバランスの取り方が違うので、勝手は変わりますね。ただ、キャンバスは長方形のことが多いんですが、円形のキャンバスは正円なので、中心は直感的に「ここら辺だろう」みたいな感じで取りやすいです。

 

絵を描くことで感じる自身の変化

ー「転換期」というと、やはりコロナでお仕事を退職されたタイミングでしょうか。

そうですね。描き始めるまでの数ヶ月間ぐらいは「描こうかな」という気持ちにはなっていたものの、それまでは描きたいものも思い浮かばず、絵を描きたいという衝動も何もなかったんですよね。

なので、アクリル絵の具に出会ったことと、コロナ禍で地元に帰ってきて、海の良さを感じたことは、間違いなく転換期になったなと思います。今絵を描いていてすごく楽しいです。

絵をまた描くようになってから、自分が進化しているような感覚があったり、新しい自分が見られて嬉しかったりするので、絵はこれからもずっと描いていきたいですね。

ー今後挑戦してみたいことはありますか?

今はビビットな色を使っているんですけど、今後落ち着いた色にも挑戦したいなと思っています。あとはヌードとかもずっと描いていないので、女性ヌードにも挑戦したいですね。イラストとかもまた描きたいなとは思っています。

ひとまずずっとアクリル絵の具で描くことを続けていきたいですね。色んな使い方ができると思うんですが、まだまだ使いこなせていないので、色々模索しながら描き続けていけたらなと思います。

chico

chico

下北沢でのアーティスト活動を経て、地元の海に惹かれたことをきっかけに、20年越しに技法を変えて制作活動を再開。蛍光色を用いて、様々な絵を描かれている。

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