Interview

温かな記憶を描いていく|描くことで満たされる心

記憶に残っている風景や色を描くsaotomeさん。パステルや色鉛筆を用いて、優しくも鮮やかな作品を描かれています。
どのような経験や想いから描かれているのか。saotomeさんにお話を伺いました。

絵はがきに魅入られて始めた色鉛筆画

ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。
中学生の時に美術部に入部したんですが、イラストの上手な先輩の影響でファンシーショップのグッズイラストを参考に描き出したのがきっかけですね。

美術部を選んだのは、特別絵を描くことが好きだったというわけではなく、早く帰れるからという理由が大きかったです(笑)。活動は本当にゆるくて、「何でも良いからとりあえず描いてみな」みたいなスタンスでした。

なので、入部して最初のうちは何となくグッズに描かれているイラストを真似するぐらいで、普通のボールペンでいたずら描きのようなものを描いていたんですよ。でもある日ファンシーショップに置いてあった葉祥明さんの絵はがきを見た時に、その場の空気感が伝わるような素晴らしい絵だなと感銘を受けまして。自分もそういう絵を描きたいと思い、色鉛筆画を描き始めました。

ーパステルとの出会いはいつだったのでしょうか?
友人に連れられた画材屋で見つけた時ですね。絵はがきに出会ってからはずっと色鉛筆で描いていたんですが、一緒に入部した友人が、「美術部なんだから画材屋さんに行こう」と誘ってくれて。色鉛筆とかを見ている時に、パステルを見つけて使うようになりました。

パステルでの色の混ぜ方は、色鉛筆で描いていたときに覚えたやり方をなんとなく意識していましたね。中学生の頃はおこづかいが無かったので、なかなか色鉛筆を買い足すことができなくて、使いたい色がなくなったら他の色を混ぜて作るようにしていた経験が、パステルで描くときに活きたと思います。

描いているうちにグラデーションなどの表現もできるようになったので、そのままパステルと色鉛筆を使って描くようになりました。周りには油彩や水彩を描いている人もいたんですが、ちょっと触らせてもらった時に「自分の道具じゃない」と感じたんですよね。

油絵や水彩は、油や水を用意しなきゃいけないですけど、パステルや色鉛筆なら、あとは紙だけあれば描けますし、片付けなくても絵の具が乾いてしまうということもないので、それも良いなと思って。手軽に、好きなタイミングでぱっと描いてぱっと止められるのが嬉しいというのもあって、その時はパステルと色鉛筆でやっていこうと決めました。

様々なことに興味があった学生時代

ー高校進学後も美術部に入られたのでしょうか?
高校では、美術部には入らず音楽部に所属していましたね。中学で美術部を選んだ理由も、絵を描きたくてというより偶然入って何となく面白いなと遊んでいただけですし、高校では高校での面白いことがあったので、そっちに惹かれてしまって。

趣味で、お友達に手紙を書く時に、1枚絵を添えて渡したり絵はがきのようなものを描いたりはしていたんですが、画家を目指そうみたいな感覚や情熱はなかったです。絵を描けなくても困らないし、隙間時間にちょっと描けたら良いかな、ぐらいの感じでしたね。

高校卒業後は、撮影をしたいという理由でデザインの専門学校にあるアニメーション科に進学しました。授業はアニメーションの作り方などを学ぶ内容だったので、パステルや画材を使用した絵の技術は学びませんでしたし、今の絵には全然直結しないようなものでしたね。

ただ、ここでの出会いが自分がまた絵を描き始めるきっかけには繋がりました。アニメーション関連の学科だったので、コミケ※に出たり見に行ったりする人たちが周囲に多くて、一緒に行こうと誘ってもらうことがあったんですよね。その時にまた絵の世界に触れて、美術学校に通っていた友人ができたり、一緒に画材屋巡りをするようになったり。そういう生活から中学時代の記憶が蘇ってきて、また絵を描こうかなと思うようになりました。

※コミケ:コミックマーケットの略称。世界最大級の同人誌即売会。

ー違う分野を通じて、絵に戻ってこられたんですね。
そうなんです。でも絵をまたちゃんと描き始めたのは、専門学校を卒業したあと、社会人になってからですね。学校に通っている間は、課題とかがたくさんあったのでそっちに集中していましたし、日々押し寄せる何かに追われて学生時代は終わってしまいました。

社会人になって、撮影の仕事ができる会社に入社したんですが、私の好きな雰囲気ではなかったので辞めてしまったんですよね。そのあとアルバイトをしながら生活している時期に気晴らしで絵を描くようになったのが、第二の絵を描くきっかけみたいな感じです。

当時気晴らしに描いていた絵

アルバイト生活を経て別の会社に就職してからは、平日は仕事が忙しくて何となく絵は描かずにいたんですが、仕事だけでは辛くなり、土日には絵を描きたいと思うようになって。それで遊びがてら絵を描くような生活をしていたんですが、友人に販売サイトの存在を教えてもらったのをきっかけに、割と本気で活動するようになりました。

自身のフィルターを通して記憶の中の風景を描く

ー風景画をメインに描かれている理由は何でしょうか?
再就職したあと、病気を患ったのをきっかけに退職したんですが、体力的な不安からあまり外に出歩くことはしたくないと思っていまして。けど気が晴れるような、自分の世界がぱーっと変わるようなことをしたいなと思った時に、風景とかの絵を描いていると、まるで実際に外を出歩いたかのような気分になれるんですよ。それが良くて、何となく解放された感覚になれる風景の絵を描きたいと日々思っています。
父が北海道出身だったので、家族で父の地元に旅行がてら行くことがあったんですが、大体はその時の風景を思い出しながら描いていますね。

今は多分都会化しちゃってそんな場所ないかもしれないんですけど、思い出の中に丘のイメージがあって。そういう風景を、写実はあまり好きではないので、私のフィルターをかけたふんわりした感じの絵に落とし込んで表現しています。

作品名:2022green

ー記憶を辿りながら描かれているんですね。
そうですね。当時の北海道って雪が降ったあとの景色は本当に真っ白で、いわゆる白銀の世界だったんですよね。だけど、朝や夕方は陽に照らされて、ふんわり赤く見えたり薄紫っぽく見えたりするんです。その風景のイメージを表現したくて、あの時の夕日の感じで描きたいなと、色味も思い出しながら描いていることが多いです。

あとは、牧場があるので真夏は一面草原のように緑色の大地になっているんですけど、緑といっても一色だけじゃないので、色んな緑があるんだみたいなことが伝わると良いなとも思って描いています。

直感で描いている部分も多いので、色味をどうしようかと考えて塗るというより、塗っているうちにその色になった、ということが多いですね。景色そのままの同じ色を映し出すというより、自分が衝撃を受けた色や、自分の記憶の中に残っている色で描いているからかもしれません。

ー絵を描く時にこだわっていることはありますか?
温かい気持ちが滲み出るような、ほっとできる作品を描きたい気持ちがあります。思い出を描いている分、やっぱり楽しかった記憶とか心に残っていることを表現したいので、悲しいとか、嫌な感情は絵の中には入らないですね。

特別そうしなければ、と意識しているわけではないんですが、描きながら「あの時楽しかったな」みたいなのが蘇っているので、自然とそうなっている気もします。なので、強いて言うなら、ただただ溢れ出した感情のままに描くのがこだわりかもしれないです。

販売サイトに出品するきっかけとなったイラスト

「自分の絵らしい」良さを模索したい

ー影響を受けているアーティストがいれば教えてください。
やっぱり葉祥明さんが一番参考になっていますね。熊本の方なんですが、北海道とかの絵も描かれているので、多分ちょっと構図的にも似てしまうんです。似てるからこそちょっと真似して描いてみようと、色々試すなかで学んでいます。

パステル画を描いている方で誰かを参考にしているというのはないんですけど、パステル画を見ると、気になって見てしまう感じですね。

ー今後挑戦してみたいことはありますか?
絶対この画材じゃないと、みたいにこだわってるわけではないので、今後色んな画材や描き方に挑戦してみたいと思います。

画材を変えたら、今まで色鉛筆やパステルでは出せなかった表現とかができると思うので、これまでの絵とは違う、その画材に向いた自分の絵の良さを模索していきたいですね。

あとはコロナも落ち着いてきたので、色んな土地に出かけて、その土地ならではの風景や特色を描けたらいけたら良いなと思います。今はパートで仕事をしている分、時間の調整とかもある程度自分でできるので、活用していきたいです。

saotome

saotome

学生時代に訪れたショップにあった絵はがきをきっかけに、色鉛筆で絵を描き始める。その後出会ったパステルも用いて、温かな記憶の風景を表現。溢れ出した感情のままに、ほっとできる作品を描き続けている。

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