理科の授業から湧いた興味
ー絵に興味を持たれたきっかけを教えてください。
小学校の理科の授業で、じゃがいもの葉っぱを観察して描くことがあったんですが、その時に面白いなと思ったのがきっかけですね。
葉脈が違うっていうのを学ぶ授業だったと思うんですが、なかなかじっくり葉っぱを見ることって普段ないじゃないですか。そこから、形を取るっていう行為が面白いなと思ったんですよ。
あとは、美術の教科書の絵も面白いなと思いまして。いろんな人の絵が載っていて、それをスケッチというか、落書き程度に描いたりもしましたね。
ー形を取るところから、絵に対する好奇心が湧かれたんですね。
そうですね、「なぜ面白いんだろう」っていうところからですね。例えば美術の教科書も、なぜこの絵がこの場所に載っているのかを考えて。面白いから載っているんだろうけど、なぜ面白いのかは分からない。算数とかだったら、なぜそれが載っているのか分かるし先生に教えてもらえるけど、美術は教えてもらえなくて。
自分が描いてみたら絵を面白いと思う理由が分かるかなと思って、スケッチをなんとなく続けたんですよね。形を取るようになったのは、その答えが見つかる本を何か、と思って図書館で探している時に出会った、永沢まことさんっていう方の本で。ちょっと真似しようと思うようになりました。
絵もすごく面白いんですが、形を取ることに命を懸ける人なんですよね。そんな人が、形をとりあえず掴んでいくと面白いっておっしゃるんで、ひょっとしたらそこに答えがあるんじゃないかと思って。理科の時間も形をとって感動したこともあって、そこから今のような形を取るペンスケッチになっていきましたね。
「なぜ面白いのか」を探究し続ける日々
ーいつぐらいから始められたんですか?
20年ぐらい前からですね。ちょっと水彩とかも考えたことはありましたけど、それまでは基本鉛筆でスケッチしていた程度で、デッサンの練習のようなことをしてました。あとは、誰かなぜ絵が面白いのかという謎を解明してほしいと思いながら、いろんな人の本を読んだり調べたり勉強して。
目って、元々は明るさを検知するぐらいしか出来ない機能だったらしいんですよね。ずっと遡っていくと植物にさかのぼるんですけど、明るいか暗いかって、植物にとっては太陽光を得て育つためにすごく重要なわけですよ。
そういうのを読んで、コントラストが大事なのはそういう理由かと、一つ分かって。じゃあ形を取るとなぜ心地良いのかっていうところで。
これはまだ答えはないんですけど、赤ちゃんって、0〜1歳ぐらいの時は人見知りしないんですよね。その時期は形がきっちり認識できていないので、母親と他人の区別がついていなくて。成長してちょっとずつ形を認識していく中で、目や鼻、口のパーツを組み合わせて、違うことを理解して人見知りするっていう。
だから形を取るっていうのは重要なんだなと。物を掴んで認識することなので、形をアウトプットできるぐらい、しっかり見ることが心地良いのだなと気づきました。そういうのを色々組み合わせても、まだまだ謎はあるんですが(笑)
ー知らないからこその探究心ですね。
生物の始まりから考えた時に、直接血が繋がっている訳ではないけど無関係ではなくて、全てのものは繋がっていると思いながら描くのが楽しくて。その興味がどんどん繋がっていって、視野が広がっていますね。
葛飾北斎の絵も面白いなと思っていて、余白を楽しむのは日本特有のものって言うけど、なぜこの割合の余白が面白いのかっていうのを言語化するのは難しくて。ただ、自分がそういう美術の大学とかに行っていないから勉強不足で知らないだけで、ひょっとしたら答えはあるのかもしれないんですけどね。
絵は自分を写し出すもの
ー形をとらえる上で、モチーフはどのように決められていますか?
特にこれっていうのはなくて、「あ、ここだ」と思ったものを描いていますね。自分でも理由は分からないので、日頃から紙を持ってぶらぶらして、心の赴いたところを描くっていう。描いてみようと思うのはなぜか、惹かれる理由は調べていきたいなと思っています。
逆に、ビル群は個人的に描きたくないというか、無意識的に避けている部分もあって。描き出したら細部まで描き込む部分が多いので、大変だなっていうのもちょっとあります。
それから、左右対称できっちりしているものは面白くないと思ってしまうんですよね。なので、綺麗すぎるものじゃなくて、建物ならちょっと崩れかけているものとか、そっちの方が不思議と味があるように感じるので、描きたくなります。あとは、体調にもよりますね。
ーその場で絵を描き上げられるんですか?
7割ぐらいはそうですね。細かい写実的な絵とかはちょっと写真も使ってますけど、基本は描く場所も描いている時も自分の気持ちに任せて、相談しながらその場で描いています。今日は調子よく描いてるなとか、休憩しないんですかとか、自分と対話しながら描いています(笑)
それが面白いんですけどね、描き始めたら止めるのも難しくて。自分でも、細かすぎても面白くなくなるからその辺で止めといたら、とか思いながら、もう1人の自分がもうちょっと描いた方が良いと思うって勧めてくるんですよね。
色塗りなんかも水彩だと変更が難しいんで、どんどん濃くしていくのを止めた方が良いって止める自分と、もうちょっとここをって言う自分がいて、ある程度したら止めるっていう。失敗も多いので、だから言ったでしょっていうのがありますね(笑)
あとは、一から描くのは基本アナログなんですが、飾りやすいサイズに調整しやすいよう、完成した後はデジタルに取り込んでいます。そこでサイズ調整をしたり、スキャンにかけると現物と色が変わってしまうので調整したりですね。
ーご自身との対話の中で描かれているんですね。
そうですね。結局は、絵を描くことって自分を見てもらうことなんだなと思っています。景色を見て自身の中に取り込んで、さらに絵としてアウトプットする中で自分のフィルターがかかるわけですよ。
ただの風景じゃなくて「自分が見た風景」を描いているんだなと。同じ景色を見ていても、ゴッホが描けばあの迫力になりますし、面白いですよね。
心の赴くままに描いていきたい
ーこれは代表作だという作品はありますか?
代表作というか、気に入っているのは「sandwich」という作品ですね。この時はめっちゃ元気で、すごくラフに描けたんですよね。これは自分で自分を褒めてあげたいって思っています(笑)
あとは「コスモス」ですね、気合いが入って、すごく時間はかかったんですけど、気に入っています。普通なら避けようと思うモチーフだったんですが、なぜかこの日は1回描いてみようってなって。レジャーシートを敷いて、ずっと描いていました。
ー今後挑戦してみたいことはありますか?
今度はアクリル画もちょっとやってみようかなと思ってます。水彩は融通が利かないので、これと決めたらそれになるんですが…その分やっぱり、失敗も多くなるんですよね。その失敗の時間ももったいないなと思ってしまうので、やり直しのきくアクリルもいいなと。
ただ、逆にいつまでも決まらないで描き続けて、余計に時間がかかりそうなのも怖いですけどね。
あとは油絵的な、テカっとした感じもかっこいいなと憧れている部分もありますね。なので、ちょっと今後やってみたいなと思います。
yutaka
理科の授業をきっかけに、絵を描くことに興味を持ち始める。飽くなき探究心から「なぜ絵は面白いのか」を知るべく、疑問を追いかけながら制作するように。 心の赴くものをモチーフに、自身から見えている世界をペンスケッチと水彩にて表現している。
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